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イトーヨーカ堂奈良店


 所在地:奈良市二条大路南1-3-1 
 URL:http://www.iy.info.co.jp/iy_release/ イトーヨーカ堂ニュースリリース
 URL:http://www.itoyokado.iyg.co.jp/iy/  イトーヨーカ堂TOPページ

 イトーヨーカ堂奈良店は旧奈良そごう跡に7月10日に出店したものである。奈良は私の地元であるだけに、奈良そごう時代からの状況などを含めて視察レポートとする。店舗の詳しい概要などは、上記のホームページや日経MJ7月19日版で見て頂きたい。
 敷地面積  41,509平米
 延床面積  80,559
   自 営  14,992
   専門店 14,693
   共 用   5,315
   合 計  35,000
 私の一番の興味は、イトーヨーカ堂がこの物件をどのようにするのかであった。はっきり言って旧奈良そごうの建物はGMSには向かないが、イトーヨーカ堂はそれをどうクリアしたのだろうか。

奈良そごう
 奈良県内で3店舗目の百貨店としてオープンした。既存の2店舗は近鉄百貨店で近鉄以外では初出店ということや、直営で3万5千平米という規模の大きさ、近鉄百貨店奈良店のある奈良ファミリーと至近距離にあることなど当時はいろんな意味で話題になった店舗である。
 立地であるが、24号バイパスと大宮通りの交差点から東側にすぐに立地し、地図上は交通アクセスは良いように見える。進入路の整備と駐車場が必要台数確保できれば確かに自動車客には好立地である。しかし、現実には絶対的な駐車場不足と進入路は不十分であったし、電車客には近鉄新大宮駅からの距離があり、見込みより大幅に少ない集客となっていた。
 開業当時は、奈良そごうの年商は350億円が売上目標であったように記憶している。確かこの売上は達成したようなニュースはあった。しかし総投資額が850億円、直営面積3万5千平米で年商350億円では採算は合わない。多分、本音での売上目標は500億円程度ではなかったろうか。350億円というのは、奈良ファミリーの近鉄とジャスコを合わせた年商を上回るということと成功だと見せるための数値ではないだろうか。『奈良そごうの初年度売上、目標を大きく上回る450億円』という戦術だと思う。
 しかし、立地の悪さ、店舗レイアウトの悪さ、そごうのMD能力の不足などによって本音の売上を大きく下回った。ただ、公表した売上目標を何がなんでも達成するために、異常とも思える外商戦略によって何とか達成したのであろう。当時の奈良そごうの外商だが、奈良県は保守的で地縁などが複雑に絡み合い、それを利用した外商戦略であった。分かりやすく言うと、企業に対しては政治家を通じての半ば強制的な購入であったり、店舗外での度重なる優待セールなど悪い評判が非常に多かった。それゆえ、奈良そごうの外商売上高が異常に高いのであった。
 また誤算もあった、奈良ファミリーが既存店舗を取り壊して新たに建物を建設するという大胆な対抗策をとったことである。これによって、規模の優位も新築の優位もなくなった。奈良ファミリーが百貨店とGMSの2核であり、ターミナル駅である近鉄西大寺駅から近いことなど、当初から奈良そごうに勝ち目は無かったのである。
 話はそれるが、そもそも奈良そごうの場所は平城旧跡に位置し、大型店舗の建設は出来ないはずである。なのに店舗が建設できたのは政治絡みと言っておこう。奈良そごうの出店で美味しいのは誰か。受注したのは大手ゼネコンだが、下請としてどのような企業が参入したのか。奈良県の県会議員には建設・土木系の議員が多いのである。
 

イトーヨーカ堂奈良店
 イトーヨーカは引き受けた3万5千平米の店舗面積をGMSでは無理ということで、65の専門店を導入し、共用通路を差し引いて直営は約1万5千平米とした。このあたりは流石にイトーヨーカ堂と言える。GMS企業で直営2万平米超で成功(黒字)の店舗が皆無に近いことをよく分かっている。ただ、テナントを導入して共用通路がとれたから直営面積は小さくなったが、直営とテナントを合わせた実質面積は同じである。
 
直営とテナントゾーンを明確に分けるゾーニングは共用通路は少なくなる。共用通路を大きく取れるレイアウトとは下手をすると、顧客から分かりにくいゾーニングになる可能性がある。
 結論から言おう。イトーヨーカ堂奈良店は失敗店舗である。失敗の原因の大半は、どの企業が引き受けたとしてもクリアできない要因である。それは、立地であり、駐車場であり、進入路である。駐車場は簡易立駐を設置したり出来る限りの対策は行っているが、絶対的な不足は解消されていない。
 次に店舗棟であるが、延べ床面積が約8万平米の5階建の建物で1層当たり約1万6千平米、後方などを除くとサービスを含んだ事業面積は1万2千平米程度になる。この広さに対してエスカレータが中央にしかない。この中央には3基(上下で1基)が
あるものの、各フロア内での回遊性の悪さの原因になっている。

 そもそも、百貨店とGMSでは買物行動が違う、百貨店の場合は目的のフロアへのアクセスの良さが重視されるが、GMSの場合は、複数の売場(この場合は複数のフロア)を効率よく回遊させる必要がある。ようはこの物件はGMSには使い勝手が悪いのである。イトーヨーカ堂のレギュラー店舗では、このような研究はよくされており非常に回遊性の高いレイアウトになっている。しかし、いかなヨーカ堂であっても、建物構造やエスカレータの移設など膨大な費用がかかる対策は出来ないだろう。あとは、そのハンディキャップをどれだけクリアするかであるが残念ながら真剣に取り組んだとは思えない。
 あと、視察した日には、店外(駐車場と店舗棟の間にある歩道でテントでのセールをやっていた。ここは売場でも催事場でもない。こんな行儀の悪いことをしているとは残念である。まあ、リッチな感じの店舗内であのセールやれば違和感はあるために外でやったのか。

ここは歩道、売場じゃないよ


奈良店に見るイトーヨーカ堂の迷走
 イトーヨーカ堂奈良店の業態は何なのか。イトーヨーカ堂はGMS企業であり、奈良店もGMSである。しかし、奈良そごうの跡であることなどから高品質=高級な品揃えを目指したようであるが、私の目からはマイカルのサティのように見える。
 まず、専門店を65も導入し直営面積が半分以下であるならば、ショッピングセンターとすべきである。イトーヨーカ堂奈良店はそのSCの最大の核店舗であるとしなかったのだろうか。また、アップグレードのMDを採用するならば、エスパとすべきではなかったろうか。エスパの本来の目的が、同一商圏に自社2店舗体制(ヨーカ堂&エスパ)のために開発されたものであり、実質的には大差はないものの、やはりエスパの方が適している。このあたりは、今後の出店戦略を考慮してイトーヨーカ堂としたのであろう。現に店長の桜井氏はエスパ川崎の店長であった方である。
 上記にあるが、見せかけの売場面積を大幅に削減するために共用通路を大きくとるゾーニングになったため、イトーヨーカ堂とテナントの区分が不十分であり違和感を感じる部分が目に付いた。構造からくる回遊性の悪さと相まって、顧客の立ち寄り売場が少ない。ようは来店客数は多くても立寄・購入売場が少なく客単価は低くなる。買物客を観察・追尾すれば容易に判断できる。
 そもそも、どのような経緯があってこの店舗を引き受けたのか分からないが、政治的な匂いがする。イトーヨーカ堂は大手百貨店・GMSの中では唯一と言っていいほど清廉な企業であったはずだが、最近はどうも納得いかない。イオンの脅威に対してなりふりかまわず何でも喰らい付くようになったと感じるのは私だけだろうか。奈良店のケースでは、総投資額850億円、累積赤字が1000億円を超える物件に僅か50億円の投資で出店とは・・・いったい水面下でどのようなやりとりや条件があったのか。

MD戦略
 立地的に、平日の集客がどうなのか気になるが、視察したのはまだオープンから2週間であったが、1階を除いて客数は少ないように思う。立地的に土日集中型で当然と言えば当然だが。1階についても正面入口に近いフードコートは多かったが、食品売場はそう多くはない。
 食品であるがMDはさすがイトーヨーカ堂と思えるものも多い。例えば鮮魚であるが、海の無い奈良県であれほどの尺数で展開されれば圧巻である。また、対面販売も東京風?で良いと思う。あと、畜産では地場の大和地鶏や大和牛、農産も地場のものなどさすがと言えよう。対面販売やインストア加工のショップも多く、百貨店の食品売場のような雰囲気もある。
 ただ、食品売場が広すぎるためか、商品の回転が気になる。畜産のパックでは加工日が2日分あり、全般的に鮮度維持は難しいように思う。まあ、このへんの修正はイトーヨーカ堂だから対応するだろう。
 食品売場での最大の問題点は、面積過剰という点とレイアウトである。元の建物の構造のためだが、中央エスカレータを挟んでレジがある。感じとしては食品売場の中央にエスカレータがある。それも3基も。回遊性、視認性が悪いだけでなく、万引きロスなども多くなりそうだし、悪意がなくて2階へ上がる顧客もいるだろう。
 衣料であるが、私は専門外なのでよく分からないが、私の家内が言った言葉はこうである。『堺店とは随分違うが、誰に何を売りたいのか分からない。この店では買うものは少ないし、高級品やブランドだったら大阪へ行く。堺店みないた品揃えで良いのに』 とのこと。
 住関連で大きなテナントは家電のミドリデンキだが、ここは関東系のヤマダやヨドバシだったらと思う。

 私が評価する関西のイトーヨーカ堂の店舗は、1位堺店、2位加古川店。 奈良店はブービー。


屋上にあるフットサルコート

正面入口側から食品売場へ

仮説検証はどこへいった
 イトーヨーカ堂の強さのひとつに仮説検証があった。これは、小売業におけるブラックボックスを仮説を立てデータで検証してゆき、ロジックを解明することである。ところが、奈良店のレイアウト・ゾーニングを見る限り、仮説検証なんか感じられない。誰にでも想定できるような限りなくホワイトに近いものを仮説とし、結果が最初から見えている検証をしているように思う。
 鈴木氏がいくら変化対応を唱えても、真正面から取り組む気構えのある社員が少ないのだろうか。あるいは、鈴木氏自身が変化に対応できなくなっているのだろうか。



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