戻る

食品売場における客単価のメカニズム


 
「売上=客数×客単価」、この公式は誰でもが知っているはずである。すなわち、売上高を増加させるには、客数を増やすか、客単価を上げるか、あるいは両方を実現するかである。どれを狙うかは企業や店舗によって違うだろうが、基本的には客単価のアップである。
 客単価とは、店内で買物された金額であり、説明されずとも分かっているはずである。では、客単価のアップとはどういうメカニズムによって達成されるのであろうか。「 客単価=1点単価×買上点数」、この公式から、客単価のアップは1点単価を上げるか、買上点数を増やすか、あるいは両方を上げることによって可能となる。
 ここで、ある店舗の客単価分布による、客単価、1点単価、買上点数、各部門購入率を見ていただきたい。条件は、GMSの食品売場で、この企業の平均的客単価の店舗である。

客単価分布
客単価
買上点数
一点単価
部門別購入率
畜産
農産
水産
惣菜
日配
一般
住居他
〜999円
519
3.3
156
12.3%
28.2%
3.1%
3.1%
53.4%
42.9%
2.5%
1000〜1999円
1495
7.0
214
30.1%
49.0%
18.2%
18.2%
69.2%
62.9%
7.7%
2000〜2999円
2528
10.9
233
48.5%
66.0%
35.9%
35.9%
88.3%
72.8%
9.7%
3000〜3999円
3461
12.4
278
65.2%
59.1%
53.0%
53.0%
84.8%
80.3%
12.1%
4000〜4999円
4415
15.5
285
58.1%
79.1%
60.5%
60.5%
83.7%
74.4%
23.3%
5000円以上
6501
20.7
315
82.6%
81.2%
75.4%
75.4%
92.8%
79.7%
13.0%
全  体
2517
9.7
260
40.5%
53.3%
30.8%
30.8%
73.8%
63.9%
8.9%

 このように、客単価は買上点数に大きく左右されることは明確である。1点単価も高くなっているが、これは単価の高い(容量の多い、ケース販売)商品によるものではない。畜産や水産など1点単価の高い部門の購入率が高いためである。
 客単価を上げるということは、より多くの部門で購入されることによる買上点数の増加と言えよう。

 では、客単価の低い店との違いを見てみよう。平均店舗は上記表の店舗、低客単価店舗は同一企業の同一業態で同一事業部、開店時期と規模もほぼ同じ店舗である。

平均店舗

 
全体
畜産
農産
水産
惣菜
日配
一般
住居他
購入率
100.0%
40.5%
53.3%
30.8%
30.8%
73.8%
63.9%
8.9%
客単価
2517

392

264
301
447
500
545
68
買上点数
9.7

0.9

1.7
0.6
1.3
3.1
1.9
0.2
一点単価
260

455

156
546
333
160
281
446

低客単価店舗

 
全体
畜産
農産
水産
惣菜
日配
一般
住居他
購入率
100.0%
37.7%
38.7%
26.1%
26.1%
66.6%
67.6%
15.7%
客単価
1916

328

157
219
272
345
481
113
買上点数
10.1

0.7

1.2
0.4
0.7
2.5
4.2
0.3
一点単価
190

442

129
505
398
141
114
329

 両店舗で大きく違うものに印を付けたが、なぜ客単価がこうも違うのか表を見れば一目瞭然だろう。これが、同じ企業の中での差異である。ポイントとしては以下のようなものが分かる。

 一般食品の1点単価が低い
   鮮度劣化もない商品で上記のような条件下では普通は考えられない。理由は、売上を取るためのSPである。ところ
   が、買上点数は多くなっているが、客単価は平均店舗に及ばない。
 農産品の購入率が低い
   農産の購入率が38.7%しかなく、しかも1点単価も低い。これは、鮮度劣化による格下げによる1点単価の下落と鮮度
   の悪さによる非購入の増加である。
 日配品の1点単価が低い
   一般と同じようなSP戦略をとっているが、鮮度劣化と欠品過多によって購入も上がらず格下げも発生している。
 水産品の買上点数が低い  
   水産品は1点単価が最も高い部門であり、購入率・買上点数の違いが売上に大きく影響する。
 惣菜の1点単価が高い
   これは、他の部門の1点単価が全て低いのに惣菜だけが高い。ほぼ同じアイテムであり、これはパック当たりの容量
   が大きいためと考えられる。そのために、買上点数に大きな差がついている。

 低客単価の店舗は、単品管理レベルが低く、過剰在庫による鮮度劣化と欠品による機会ロスが発生している。売上狙いは、一般や住居他などの店単独のSPを過剰に実施している。より多くの部門で購入して頂こうとか、もう一点買ってもらおうとかの意識が欠落したままである。また、商品の入れ替え作業や格下げのためのチェックとシール貼りなど不要な作業が増え、収益が悪化し、それを補おうとしてSPを仕掛けるという悪循環に陥っている。

 客単価のメカニズムが分かっていれば、食品スーパーの客単価アップは難しくない。まず、自社・自チェーンの中で客単価の高い店舗グループと低い店舗グループで検証すれば、ここで説明したようなメカニズムが分かるはずである。その特徴は、企業によって相違するため、ここで用いたものとの比較はあまり意味はなさないので注意して頂きたい。
 ただ、その前に、店長や部門長が客数、客単価、1点単価、買上点数を把握しているか否かが重要である。いろんな企業・店でヒヤリングしたが答えられる店長は少ない。特に部門別となると答えられる部門長は皆無に近かった。
 ある実例としては、 最大手の食品スーパーの店長が、長年勤めているレジのパートから、「店長、最近買上点数が少ないように思いますが、昔はカゴ一杯とか2カゴのお客さんもいたのに。だから客単価が低いと思うんですが」と言われた。そこで店長が、「客単価を上げるのは、ジュースのケース売りやパックの容量を大きくして1点単価を上げることなので、客単価を気にすると逆に悪くなる」との返答。何を言わんかな、この店の客単価は平日で1500円台、土日で1700円前後しかないのである。私に言わせれば店長失格である。それを気付かない本部も然りである。
 
客数はマーケット規模や競合店に左右されるが、客単価は店舗内に入ってから清算するまでの指標である。各店長に売上高を競わせるのではなく、客単価及び客単価の増加額を競わせるべきである。客単価が増加すると競合店での買物回数が減り、自店の客数は増える。その結果として売上が増加するのである。



戻る